なぜ軟骨は「削れる」と治りにくいのか?その脆弱性の理由
2025年05月31日

私たちの体を支え、関節の動きを滑らかにする軟骨ですが、一度損傷すると「なかなか元に戻りにくい」という特徴があります 。特に、関節軟骨が削れてしまうと、その自然治癒は極めて困難です。なぜ軟骨はこれほどまでに脆弱なのでしょうか?その理由を探ります。
軟骨の「無血管性」「無神経性」という特性
軟骨組織は、血管、神経、リンパ管が存在しない「無血管性」「無神経性」という非常に特殊な性質を持っています 。
- 血管がない: 血管がないため、損傷した軟骨組織に栄養や修復に必要な細胞が直接供給されません 。これは、他の組織が損傷した際に血液を通じて修復因子が運ばれるのとは対照的です。
- 神経がない: 神経がないため、軟骨が損傷しても痛みを感じにくいという側面があります 。これにより、損傷が進行しても自覚症状が出にくく、気づいた時にはすでに進行しているケースも少なくありません。
これらの特性が、軟骨の自然な修復を極めて困難にしている主要な理由です 。
関節軟骨に「軟骨膜」がないことの致命的な影響
さらに、関節軟骨の修復能力が低いもう一つの大きな理由は、通常の硝子軟骨とは異なり、「軟骨膜を欠く」という特異な構造的特徴にあります 。
軟骨膜は、他の軟骨(例えば、成長期の骨の端にある軟骨)において、軟骨の成長や再生に関与する重要な組織です 。軟骨膜の細胞は、軟骨との移行部で線維芽細胞から軟骨細胞に変化し、軟骨基質や線維成分を作ることで、軟骨が外層に追加される形で成長する「付加成長」を可能にします 。軟骨が損傷した場合の再生も、この付加成長の様式をとることがあります 。
しかし、関節軟骨にはこの軟骨膜がないため、修復に必要な軟骨細胞の前駆細胞(原子線維芽細胞様細胞)の供給源が欠如しています 。この細胞の供給源がないことが、「関節軟骨が、一旦削れると治らない理由である」と詳細に説明されています 。
つまり、関節軟骨は、血管からの栄養供給や神経による感知、そして軟骨膜からの細胞供給といった、一般的な組織修復に必要な要素を欠いているため、一度損傷すると自然治癒がほぼ不可能に近いのです。この根本的な修復能力の欠如が、変形性関節症などの軟骨疾患が進行しやすい原因となり、再生医療や人工関節置換術といった積極的な治療法が必要とされる背景となっています 。